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平成十六年第四回定例会の開会に当たり、私の今後の区政運営に関する基本的な考え方を申し
上げ、区民並びに区議会の皆様方の御理解と御協力をお願いいたしたいと存じます。
説明に入ります前に、数度にわたり日本列島を直撃した台風並びに新潟県中越地震により亡くな
られた方々とその御遺族に対しまして、深甚なる哀悼の意を表しますとともに、被害を受けられた 方々に対しまして、心よりお見舞いを申し上げます。被災地の一日も早い復興を心より願うものでご ざいます。
このたび、私は、一朝有事の際には、区の災害対策本部長として一千七百人の職員を指揮し、十
九万区民のかけがえのない生命と財産を全力を挙げて守るべき立場となりました。最前線の災害 対策を統括するという責務の重さに身の引き締まる思いがいたしますとともに、当区における防災 対策に万全を期する決意をいたしたところであります。
さて、前助役、前区長が相次いで逮捕、起訴されるという荒川区始まって以来の事態は、区関係
者はもとより、区民の間にも大きな衝撃と混乱をもたらしました。
いまだ混沌とした状態が続く中にあって、区政を建て直し、改革していく道のりが決して平坦なも
のではないことは、十分承知しております。しかし、私が生れ育った荒川区の再興のために、身を賭 して区政運営に取り組まなければならないという強い使命感が、荒川区長として新たな道を歩むこ とを私に決意させたのであります。
十分な準備もできないままに突入した選挙戦は大変厳しいものでありましたが、区民の皆さまの
熱いご支持を得て、区長に就任させていただくことができました。私は、区民の皆さまの区政への熱 い思いを真摯に受けとめ、これからの区政運営に全身全霊をかけて取り組んでまいる所存でありま す。
英国「エコノミスト」誌が、今、世界で最も大きな影響力を持つビジネスの思想家と評価しているス
ティーブン・R・コヴィー博士は、次のように言っております。「信頼というものは、預金の残高と同じよ うなものである。応急処置や、近道はあり得ず、親切、正直、約束を守るなどの、継続的な行動によ って、信頼残高を増やし、維持することができる」というものであります。
今や区政に対する信頼は、それまでの蓄えを一気に失い、残高はゼロ、あるいはマイナスといって
も過言ではない状況にあります。中途半端な改革や見かけだけの刷新では、汚名を返上し、区民の 皆さまの信頼を回復することは、到底できないものと考えております。
そうした意味で、本日は、コヴィー博士が示す信頼残高を増やしていく方法のうち、三つを紹介さ
せていただきます。第一は「小さな事を大切にすること」であります。信頼回復に決定打はありませ ん。私は、スタンドプレーではなく、日々の積み重ねを大事にし、小さな事項も見逃さずに着実に区 政運営を進めてまいります。
二つめは、「約束を守ること」であります。今回の選挙で掲げた公約は、もとより、今後も区民の皆
様との約束はしっかりと果たしてまいります。
三つめは、「誠実に行うこと」であります。今更申し上げるまでもないかもしれませんが、誠実さは
信頼回復の原点であります。区民の皆様の思いを受けとめ、誠実に区政運営にあたってまいりま す。
私は、この三つのことを大切にし、このたびの事件の教訓をすべての職員とともに心に刻み、私が
先頭に立って、小さな努力を一つひとつ地道に、誠実に積み重ね、約束を果たすことにより、区民に 信頼される区政の実現に取り組む決意でございます。
さて、私は、このたびの区長選挙では、地に落ちた荒川区の信用と信頼の一日も早い回復をめざ
し、「区政の刷新」をスローガンとして、九つの分野における公約を掲げました。そうした私の考え方 を受けとめ、ご支持をいただきました区民の皆さまの思いをしっかりと心に刻み、約束を果たすべく 懸命に努力してまいる所存であります。
ここで、区長就任にあたり、私の区政運営に関する基本的な考え方を申し述べ、区議会の皆様の
御理解と御支援を賜りたいと存じます。
まずは、このたびの選挙の最大の争点でもありました、不正のない区政運営についてであります。
その一つが、入札制度を抜本的に見直すことであります。来年四月から稼動が予定されております 電子入札システムの導入を契機に、指名競争入札を廃止し、区内企業にも配慮した制限付一般競 争入札を原則とした契約制度を導入してまいります。また、随意契約を厳格に運用いたしますととも に、障害者の雇用促進などに取り組む企業であるか等の視点も加えつつ、透明性の高い制度を構 築してまいります。
また、こうした施策に合わせまして、契約後の業務評価を厳格に実施するとともに、幅広い人材に
より構成する入札チェック組織を設置いたします。さらに、外郭団体の契約につきましても区と同等 の適正な基準に従って行うよう指導してまいります。
このような契約制度関連の改善とともに行わなければならないのが、公務員倫理の徹底でありま
す。私は、企業団体からの献金を受けず、政治資金パーティーも原則として行わないなど改革に取 り組む自らの姿勢を内外に明らかにいたします。また、職員倫理条例の制定、倫理研修の充実をい たします。さらに内部通報制度なども早期実施に向け検討してまいります。
これらとは別に、区の財政状況を考え、自らの退職金を辞退いたしたいと思います。
また、区政を区民の手にもどし、区民の誰もが参加しやすい区政づくりに向け、区政情報の原則
公開による透明性の確保、パブリックコメント等による区民の声の区政への反映に積極的に努めて まいります。このような不正防止策を徹底して行うことにより、区のマイナスイメージを一日も早く払 拭し、区政を刷新してまいります。
続きまして、区政運営全般に関する基本的な考え方を申し述べます。
まず始めに、中小企業の街荒川区の再興に向けた施策であります。
私は、これからの日本経済が世界で勝ち抜いていく、ロボットやコンテンツなどの先端産業、ライフ
サイエンスやナノテクノロジーなどの新産業創出を支える技術による高付加価値の新産業を戦略的 に創出していかねばならないと認識しております。そうした先端的な産業を区内へ誘致することが区 内の関連企業へと波及し、地域経済発展の起爆剤となるものと確信しております。
また、社会のニーズに対応し、確実に市場の広がりを見せる健康や福祉、環境、さらにはアウトソ
ーシングなどのビジネス支援などの産業も大きなポテンシャルを有するものと考えます。都立の保健 科学大学や航空高専などの高等教育機関と連携し、区内の中小企業がそうした市場に参入し、大 きく飛躍ができるよう、支援してまいります。
一方、そうした先端分野にあわせて重要なのが、職人技を区内産業の振興に活かすことでありま
す。ハンドメイドの製品は欧米では非常に高く評価されていることを、皆さんもご承知と思います。伝 統工芸、マイスターなどの職人技につきましても、国内だけでなく、世界を視野に入れ、アピールして まいります。
このような産業戦略のベースになるのが人づくりであります。刻々と変化するビジネスチャンスに的
確に対応できる中小企業経営者の育成のために「あらかわ経営塾」を創設するなど、意欲のある事 業者に対して積極的に支援してまいります。
次に地域イメージの向上とコミュニティ施策について申し述べます。
日暮里・舎人線、つくばエクスプレスなどの新交通網の整備は、当区に新たな可能性をもたらすもの
であります。この機を活かし、下町文化の発信などによる観光振興を推進し、人が集う魅力ある街づ くりと地域商業の活性化を図ります。
続きまして、未来の宝である子どもを大切に育んでいくための施策についてであります。児童虐待
などの痛ましい事件が決して区内で起こることのないよう、育児の不安解消に向けた受け皿の整備 などに取り組んでまいります。また、学校教育につきましては、基礎学力の向上に向けた施策を着 実に行いますとともに、学校が地域間・世代間交流、さらには環境教育の場となるよう、取り組んで まいります。
次に、障害児や障害者向けの施策であります。障害者が自立し、生きがいのある暮らしができる
よう、NPOとの協働による就労支援や自立支援のための施設、スポーツ、文化活動を活発に行え る環境を整備いたします。また、障害のある方々を含め、誰もが安心して暮らせるまちをめざし、バリ アフリー化の推進と災害時のサポート体制の確立、さらに心のバリアフリーをめざし、多様な交流事 業に積極的に取り組んでまいります。
続いて、高齢者をはじめ、区民が安心して生きがいを持って暮らせるための施策であります。多世
代でスポーツを楽しめる環境整備や社会教育サポーターの育成などによる、生涯教育の充実など、 高齢者から子どもまで誰もが身近な場で心身ともに健やかに暮らせる街をめざします。また、シルバ ー人材センターを活用した高齢者に対する活躍の場の提供や気軽に外出できるコミュニティバスの 運行なども促進してまいります。
さらに、残念ながら要介護となった場合にも、充分にサービスを受けられるような体制を整備いた
します。その前提となる介護保険事業者の実態調査を行い、詳細に情報公開することにより、利用 者が事業者を選択する際の判断材料を提供してまいります。
このほかにも、高齢期になっても安心して住み続けられるような住まいの確保についても幅広く検
討してまいります。
さらには、このような高齢者が要介護となることを予防するという観点からも、健康の保持増進に
力を注いでまいりたいと考えております。健康は、区民一人ひとりにとって幸せで充実した人生を送 るための基盤であるだけでなく、活力ある地域社会を築く上でも欠かせないものであります。健康寿 命を延ばし、働き盛りの死亡を減らすため、生活習慣病予防を中心とした健康づくり施策を大きな柱 のひとつとして取り組んでいく所存です。
次に、安心・安全・清潔な街づくりについてお話しします。
冒頭にもふれましたが、住民の生命と財産を根こそぎ奪い去る、火災、震災、水害の発生しないこ
とを誰もが願っております。しかし、万が一発生したときのことを想定いたしますと、木造住宅が密集 する当区におきましては、行政の責務は大変重大であります。こうした危機意識のもとに木造住宅 密集地域指定の継続と拡大、木造建築の建替促進、狭隘な道路の拡幅などに粘り強く取り組んで まいります。
また、ポイ捨てをなくす、あるいは下町の足である自転車が走りやすい環境の整備などにより、誰
もが心地よく生活することができるような、清潔な街づくりについても取り組んでまいります。
ただいま、申し上げてまいりました施策の多くは、独り区だけが取り組むのではなく、区民や区内
事業所、関係機関とも十分な連携を図ることによって、より大きな成果を発揮するものであります。ま ずは、民間活力の積極的導入などにより、区行政自体がスリム化するとともに、町会・自治会の一 層の活性化やNPO、ボランティアとの協働、性別にかかわりなく、だれもが個性に応じた生き方を 選べる男女共同参画社会づくりなどを通じて、行政と住民が一体となって、より暮らしやすい街づくり に取り組んでまいります。
以上、私のこれからの区政運営に関する基本的な考え方の一端をご説明してまいりました。私
は、自治体の長として区政運営の舵取りを行うこととなります。その守備範囲の広さや住民の生活 に直接影響することなどを考えますと、これまでにない職責の重みと、新たな挑戦への意欲が沸々 と全身から湧き上がってくるのを実感しております。
「将来を予測する最善の方法は、自ら将来を形作ることである。」これは、ピーター・F・ドラッカーの
言葉であります。現在、わが国は行き先が見えない、大変困難な時代にあります。しかし、そうした 時代にあっても、区民一人ひとりの区政への熱い期待に応え、私は、持てる力のすべてを区政に捧 げ、失われた区民の信頼を一日も早く取り戻しますとともに、区民のための行政という原点に立ち戻 り、区民サービスの向上に向け、一心不乱に働き、荒川区の未来を切り拓いていかねばならないと 決意するところでございますので、区民並びに区議会の皆様方のご理解とご支援、ご協力をお願い 申し上げます。
また、ただいま区政運営に関する基本的な考え方を申し述べてまいりましたが、具体的な区政の
方針につきましては、第一回定例会において申し述べますので、よろしくお願いします。
本定例会には、平成十六年度一般会計補正予算案をはじめ、多数の案件を提案しております。い
ずれも区政運営上、重要な案件でございますので、御可決いただけますようお願い申し上げ、私の 挨拶とさせていただきます。
お断り:本文は口述筆記ではないため、表現等に若干の違いがある場合がありますことをご了承下さい。
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